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腎臓がんのお話 その1
種類と進行度および診断

がんとは遺伝子の異常の積み重ねにより細胞が変化して増殖に歯止めが効かなくるだけではなく、周りの組織に潜り込むというスキルを獲得して体の中に広がっていく病気です。

種類

腎臓の場合、「ネフロン」という血液を濾過して尿を生成する機能ユニットを形作る複数種の細胞群からがんが発生するのですが、元になる細胞の種類によって出来上がるがんの性質が変わります。

最も多くがんが発生するのが近位尿細管と呼ばれる部分を覆っている細胞で、ここから発生した癌は細胞内にグリコーゲンという物質を豊富に含んでいるため、顕微鏡で見た時に細胞が明るく透けて見えることから淡明細胞癌と呼ばれます。
すべての腎細胞がんの中の6~8割を占めています。様々な遺伝子の変化が蓄積されてがんが出来上がるのですが、このがんを発生させる最初のスイッチがVHLという名の腫瘍抑制遺伝子の異常であり、1993年にこの遺伝子が見つけられたことでその後の腎臓がんの発生メカニズムの解明が始まりました。

その他、遠位尿細管と呼ばれる部分を覆っている細胞から発生する乳頭状腎癌や嫌色素性がん、遠位尿細管のさらに先にある集合管という部分を覆っている細胞から発生する集合管がん(別名:ベリニ管がん)など性質の異なる様々ながんが発生することが知られています。
また場所による違いではなく、長期間人工透析を受けられた方に発生しやすい透析関連腎がんはこれらの部位別のがんとは見た目に似た部分はありますが、異なる性質を持っています。

進行度

上述したようにがんは進行性の病気です。転移が出てきた、まだ出てきていないというのは大きな違いですが、転移が出る前にも予後に差がでる進み具合の違いというのが知られています。
通常腎臓がんの進行度(ステージ)は4段階に分けられます。

ステージ1

大きさが7cm以下の腎癌で周りのリンパ節や他の臓器に転移していないものがこのグループに入ります。
報告によって僅かな違いがありますが5年生存率(診断後あるいは手術後から5年間の間この癌によって命を失わなかった確率)は90%を越えています。

最近は健診や他の病気に対する画像検査によって小さい状態で発見される腎癌が増えており、7cmというなかなかのサイズを区切りにするのは大雑把では?(部分切除術での対応のしやすさにも違いが出るので)ということで4cm以下と、4cmを越えて7cm以下の腫瘍に分けて考えることもあります。(腹腔鏡か手術が基本ですが、部分切除か腎臓摘出術かという点で手術方法の選択に差が出ます)

ステージ2

大きさが7cmを越えている腎癌で周りのリンパ節や他の臓器に転移していないものがこのグループに入ります。
これもまた10cm以下と10cm越えに分けることもあります。(生存率に差が出ます)
基本的に腎臓摘出が選択されるという点では治療方法に違いはありませんが、10cm越えになるともはや腹腔鏡での手術は困難で開腹が基本となるのに対し、10cm以下であれば状況が許せば腹腔鏡での手術が選択されることがあります。

ステージ3

ややこしい話ですが、このステージからは腫瘍の大きさは関係がなくなります。
腫瘍が大きかろうが小さかろうが周りの組織(脂肪など)に食い込んでしまう、もしくは周りのリンパ節に1個だけ転移が見つかるとステージ3とされます。
ただ食い込む先が腎静脈、さらには下大静脈(段々と心臓に近づいてきます)になると生存率がかなり違ってきます。
特に下大静脈と呼ばれる心臓に直結する太い静脈の中にまで腫瘍が入り込んでいると手術も大掛かりなものとなるため、術前に薬物治療で縮小を試みて手術の難易度を下げようとすることもあります。
この段階まではなんとか手術でことを治められないかと頭をひねるところです。

ステージ4

これもまたいくつものパターンをまとめて呼んでいるものです。
まず腎臓の周りには硬い繊維でできた膜(ゲロータ筋膜と言います)があります。
がんの進展もここまでで止まっていることが多いので手術の際にはこの膜ごと腎臓を摘出すると癌を残さずに取り切れることが多いのですが、ときにがんがこの膜をこえて育つことがあります。
この状態はステージ4と呼ばれます。これとは別に同じゲロータ筋膜内にあるのですが、腎臓の頭側にある副腎という臓器にがんが食い込んでしまった場合もステージ4になります。
さらに先ほどステージ3では1個のリンパ節が、という話をしましたが、これが2個以上になるとステージ4ですし、そもそも遠隔転移が見られた場合には軒並みステージ4に分類されます。
これらはいずれも予後不良な兆候であるとともに、手術単独ではもはや対応不可能という状態でもあります。

診断方法

腎臓がんの診断方法の原則は造影剤を点滴しながら行うCT、特に点滴開始からのタイミングを重視したダイナミックCTと呼ばれる撮影方法が用いられます。
造影剤はおしっことして排泄されるため腎臓の機能が低下して造影剤が使用できない場合には使えませんし、また造影剤に対してアレルギーを持っている場合なども造影剤を使用できないため、MRIと内部の血流を評価できるドップラーエコーを組み合わせて診断が行われます。

ダイナミックCTでは腎臓がんの進み具合を見るために腫瘍の大きさだけではなく、周囲への食い込み具合や周りへの転移の有無をチェックします。
最も転移が多いのは肺なのでCTは肺まで撮影します。特に血管系のチェックは重要で、先ほどのステージの区別のための静脈のチェックはもちろん、手術の際は腫瘍を切除する前に腎臓に流入してくる血液を遮断しておかないと術中の出血量が跳ね上がりますので、腎臓に血液を送り込む動脈(一本とは限らないところがややこしい)を探して腫瘍との位置関係を把握しておきます。

CTを頭のてっぺんから爪先まで撮影すると被曝量が膨大になるため通常は胸部~上腹部もしくは骨盤部までが撮影範囲となります。
腎臓がんは骨にもよく転移するのでCTで撮影されない範囲にある骨については骨シンチグラムと呼ばれる低放射線量で全身の骨のみの異常を調べる検査で事前のチェックを行います。
もちろんこの他に手術を行うならば手術そして麻酔をかけることが可能な状態かどうかを採血・心電図・胸腹部レントゲン撮影などでチェックします。

採血といえば最近は血液でがんがわかる!という広告が多く見られます。最近の医科学の進歩は目覚ましいもので、このような血液検査(時には尿検査)は何の症状もない人たちの中から癌を見つけ出す画期的なスクリーニング技術的の一つなのですが、もう少し正確に話をするならば、がんが見つかる、のではなくがんの可能性のある方が見つかるというのが正しいと思います。
がんの確定診断(確実にがんがありますよという証拠)は血液のがんを除くと生きている組織を採取して顕微鏡で見てみるしかありません。
この原則は崩れていないので広告の文章には注意を払っていただきたいものです。

話が思い切り逸れてしまいましたが、では腎臓がんにおいて採血でわかるようなマーカー(スクリーニングのための目印や治療効果を見るための目印)はあるのかというと、まず腎臓がんのスクリーニングマーカーとして確実性の高いものはありません。
現時点では使わないよりは使ったほうがマシかなぁ程度にお考えください。
一方治療効果を見るためのマーカーとしてはヘモグロビンや血小板、好中球、カルシウムおよびC反応蛋白(CRP)など一般的な採血で測定されるような項目がステージ4の腎癌に対する薬物療法の予後を予測するために用いられています。
薬物療法を考えないような場合には縁のない話ですが。
ステージ3以下の腎臓がんに有効な効果測定マーカーもまた存在していないのです。

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