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血管筋脂肪腫

腎臓にできる良性のおでき(腫瘍)の代表で、超音波検査で発見されやすいためよくお目にかかる病気です。

原因

その名前の通り血管(内皮)細胞と筋細胞と脂肪細胞から構成される腫瘍です。
そう、人間の体に普通にある細胞です。
なぜにそれが腫瘍に?と思われるかもしれませんが、そこには『接着阻害』というお約束が関わってくるのです。

接着阻害とは単純にいうと「正しい方向で細胞が並んでいると増殖が抑制される」というルールです。
このルールがないと精子と卵子というたった二つの細胞が合体していろいろな種類の細胞に分かれて行っても境界線ができなくなってしまうため、ただ増えた細胞の塊がウゴウゴと蠢くだけになってしまい、人体のようなややこしい構造ができなくなってしまいます。
というわけで、一つ一つの細胞を見ると割と普通なのに、方向性がまちがったまま増え続けてしまうため腫瘍になってしまうのです。
そのためこの腫瘍は「過誤腫」と呼ばれる疾患の一つとされています。

良性の細胞が集まっているならほっぽっといていいんじゃ無いの?と思われるかもしれませんが、それでいいかは微妙なところです。
小さいうちはまあ経過を見ているだけということが多いんですが、画像検査上の直径が3~4cmを超えてくると問題が起きる可能性がでてきます。
何が起きるかというと「破裂」することがあるんです!
火薬も何も体の中には普通ないんですが、爆発は起きるんです。

先ほどこのおできを構成する細胞が血管細胞と筋細胞、脂肪細胞だと言いました。
筋肉の細胞が無秩序に増えても命令する神経がない限り自律的にも意識的にも収縮して腫瘍が動き出すなんてことはありませんし、脂肪細胞はあまりに育つと余計なものを分泌する(炎症を誘発する様な物質が脂肪細胞から出されることがある)ことはあるかもしれませんが、通常は何もしません。
厄介なのは血管細胞で、これがある程度集まってくると弱々しい血管もどきが出来上がります。
通常の血管では複数種の細胞がキレイに並んで何層もの構造が形成されておりいろいろな物質を出し入れしつつもかなりの圧力(血圧)にも耐えられる様になっています。
ところがこの弱々しい血管もどきには裏打ちする様な細胞がありません。
もどきが単独で存在している分には何も起きませんが、腫瘍が大きくなるにつれて周りの組織の血管と接触することがあると正常血管と腫瘍内の血管もどきがつながって血液の流れができてしまいます。
つながった血管が静脈という圧の低い血管ならあまり害がないのですが、動脈という心臓からの血液を流す圧の高い血管とつながると、もどきはその圧に耐えられず風船の様に膨らみます。
周りの腫瘍組織もしっかりとした構造物ではなくたんなる無秩序に増殖した細胞の塊ですので支えにはならず、圧が高まればもどき血管が破裂することになります。

いつ正常血管とつながるのかとか、つながった後はどのくらいの速さで大きくなるのかとかは予測できません。
そのため地道ですが定期的に超音波でサイズや内部血流を見ておき、危ないかな、と思ったら造影剤を用いたCT検査で血管の精査を行うのがお薦めです。

診断

基本は超音波、精査は造影剤を使ったCTが用いられます。

脂肪組織は超音波を跳ね返す(透過性が低い)ので画面で白く光ります。
腎臓は透過性が高いのでどちらかというと黒っぽく写ります。
そのため小さい腫瘍でも脂肪を含んでいるものはコントラストが高く、発見されやすくなるのです。
内部を通る血管もどきについてはドップラーエコーという方法で簡易な評価は可能です。
ですが破裂のリスクを論じられるほど細かい解析は難しいので造影剤を投与したうえでCTを撮影すると破裂リスクのある血管の瘤(動脈瘤)を映し出すことができます。

治療

腫瘍のサイズと自覚症状があるかないかで方針を決めます。
通常自覚症状は出ませんが、よほど大きくなると圧迫感を感じることがあります。
ただ圧迫感を感じるサイズであれば自動的に治療対象のサイズに入ってしまうはずなので、この症状は治療方針の決定にかかわりません。

ここでいう自覚症状とは主に痛みを意味します。3~4cm以上になると破裂する確率が上がるというだけで、それ以下のサイズでも破裂は稀に起こります。
破裂は強い痛みと出血によるショック症状を伴うためわかりやすいのですが、弱い痛みを繰り返し感じる場合には破裂の前駆症状の可能性があります。
そのため基本的な治療方針は

  1. 3~4cm以下のサイズで自覚症状もなし → 半年~1年ごとのエコーフォロー
  2. 3~4cm以下のサイズで自覚症状あり → 造影CTにより評価。長径5mm以上の動脈瘤があればカテーテル治療
  3. 3~4cm以上のサイズ → 造影CTで評価し、カテーテル治療 or 手術 となります。

カテーテル治療とは足の付け根の脈をふれる血管に針を刺して細いワイヤーを入れ、動脈瘤のあるところまで進めておき、そのワイヤーをガイドにしてチューブ(カテーテル)を挿入、ワイヤーを抜いて動脈瘤のスペースを埋めることのできる物質を注入して瘤を潰します。
注入した物質が血液の流れに乗って予想外のところに飛んでいってしまうことが稀ですが起こりうるのが難点です。
手術は良性腫瘍なので周囲の正常な腎組織を合併切除する必要はなく、くり抜く様に切除します。

家族性(結節性硬化症)

ごく稀ですがこの腫瘍を発生しやすい体質を持つ家系があります。
それがこのWebpageの主な疾患で説明している「結節性硬化症」です。
通常の腎血管筋脂肪腫(散発性もしくは孤発性と言います)はどちらか片側の腎臓に一つだけ発生することが圧倒的に多いのですが、家族性に発生するこの結節性硬化症では両側の腎臓に多数の腫瘍が発生してしまいます。 (両側の腎臓にこの腫瘍が多発していたとしても必ずしも結節性硬化症とは言い切れないことがあるのでさまざまな追加検査が必要になります)
散発性の血管筋脂肪腫がどうやって発生するかはよくわかっていないのですが、結節性硬化症に伴って発生する場合は比較的そのメカニズムが解明されており、特有の治療薬が存在します。完全に腫瘍を消し去ることのできる薬ではないのですが、増殖を止めて、特に血管部分を縮小させることで破裂を予防できるという効果が期待できます。
日本でも結節性硬化症の方には保険適応が通っていますが、残念ながら散発例に対する効果ははっきりしておらず保険適応にはなっていません。

悪性化

ごくごく稀なのですが、血管筋脂肪肉腫といって「肉」の一文字が入ると、非常にタチの悪い腫瘍ができてしまうことがあります。
治療前に肉腫だと言い当てることは非常に困難で、多くの場合は手術で取り出したものをよくよく観察したら悪性と思しき所見が見られたとか、あるいは既に転移を起こしてしまって悪性なんだなと判断されることがほとんどです。
ですのでやはりこまめに画像でフォローを受けていただき、大きくなるのがあまりにも早い様であればカテーテル治療ではなく手術による摘出がお勧めされます。

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