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慢性骨盤痛症候群

男性骨盤の慢性的な痛み

お腹や股の痛み」の項目でも述べましたが、泌尿器科で扱う痛みとしては

  • 背中から脇腹、あるいは下腹部から足の付け根、陰嚢・陰茎、会陰に生じ、
  • ずっと続く場合もありますが、飛び飛びに起こることが多く、また排尿や腹圧をかけた際などに痛みが強くなることが多く、
  • 不快感程度のものから激痛までと幅広く、
  • 頻尿や残尿感・血尿、陰部の腫れやしこり、時に発熱を伴っています。

この中で原因が分かりにくく、また痛みが慢性化しやすいのが骨盤部~陰嚢の痛みです。

もちろん細菌の感染で生じる急性炎症であれば痛みがどこにあるのかも比較的分かりやすく、また熱を伴うことも多いので診断は容易です。
一方で調べてみてもはっきりとした感染や腫瘍の発生といった原因が見つからず、かといって痛みがきえないためどうやって対処しようかと頭を悩ますということも珍しくありません。
このような骨盤部の痛みを慢性骨盤痛症候群と呼びます。慢性と名がつく膀胱炎、前立腺炎、精巣上体炎と呼ばれていたものの総称です。

「お腹や股の痛み」の項目で述べた様な検査では原因がはっきりしない場合、原因の探索を続けるよりは定期的な観察を続けつつ、症状を和らげる方針が選ばれます。

しかし慢性骨盤痛症候群に対して効果が保証されている薬剤はほとんどありません。
そのため一人一人の尿路の状態(前立腺肥大があるかないか、残尿の有無など)や痛みの誘因となりそうな習慣(刺激となる物質の摂取や座りっぱなしの生活など)をよく伺って行動療法(誘因を避ける、体を動かす時間を作る)を行います。
その上で薬物の投与による改善効果を待ちます。

余談ですが薬剤の効果を試す方法として最も信頼性が高い方法がランダム化比較試験です。
似た様な状態の患者さんをたくさん集めていくつかのグループに分け、それぞれに違った治療を行って効果を比較してみるという方法です。
このやり方で慢性前立腺炎に対して効果があるとされた薬剤がセルニチンポーレンエキスです。
この薬を用いた比較試験は集めた症例数が少なめで、また再現性(全く関係のないグループで試して同じ効果が得られること)も確認されていないためどの程度の効果があるのかは明言しにくいのですが、日本で慢性前立腺炎に使用可能で、明確に証拠のある薬剤であることは間違い無いです。

前立腺肥大の治療薬であるα1阻害剤や抗菌剤・鎮痛剤の長期投与試験も行われていますが、有効とする報告と無効とする報告が入り乱れています。医療に関するデータの統合解析を得意とするコクラン・レビューによればこれらの治療に効果があるという明確な証拠にはなっていないということです。

少数例の報告があるのみですが比較的多く使用されている薬剤が漢方薬です。
泌尿器科領域で排尿時痛と共に頻尿や残尿感を軽減することを目的に投与される漢方薬には以下のものがあります。

竜胆瀉肝湯 排尿痛・残尿感・尿の濁り・こしけ
(体力のある方向け)
五淋散 排尿痛・残尿感・頻尿
(体力が中程度の方向け)
猪苓湯 排尿痛・残尿感・尿道炎・腎臓炎
(万人向け)
猪苓湯合四物湯 排尿痛・残尿感・頻尿・排尿困難
(体力が中程度の方向け)
清心蓮子飲 排尿痛・残尿感・頻尿
(胃腸虚弱の方向け)

*女性の「おりもの」のことです。

他の不調に合わせて別の漢方薬が投与されたり投薬内容が追加されたりすることもありますが、多くの場合はこの5種類が使われていると思います。
漢方薬はそもそも一つ一つが複数の薬効成分を含んでいる生薬の合剤であり、その中のどの成分が排尿痛に有効なのかはわかっていません。
複数の成分がその方にとって有効であれば効果が強く感じられるのですが、どの成分がどの方に効果があるのかを予測するシステムがないため、試してみるまで効果があるかどうかがわからないのが残念なところです。
どの程度の期間内服すれば効果を判定できるのかも明確ではないため、当クリニックではまず2週間続けていただき、少しでも効果が感じられる様であれば2ヶ月程度継続して再判定を行っています。
2週間で効果が感じられない場合は薬剤を変更することにしています。

たかが痛みと侮ることはできません。慢性骨盤痛症候群による生活の質への影響は心臓疾患と同じくらいだとする報告もあるくらいです。
また潜在的な患者数も多いと考えられており、皆さんの周りにもこの症状でお困りの方がおられるかもしれません。
快刀乱麻を断つような方法はありませんが、お一人で悩まれるより泌尿器科に相談に来て下さい。

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